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神戸地方裁判所 平成10年(ワ)502号 判決 1999年6月30日

原告

原田嘉子

被告

山本伸幸

主文

一  被告は原告に対し、金二一六万五一五四円及びこれに対する平成七年九月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、三七六万〇一二四円及びこれに対する平成七年九月三日(後記事故の発生日)から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、後記交通事故(後記の本件事故と特定した事故)により傷害を負うと共に物損を被った原告が、被告に対し、民法七〇九条、自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償を求める事案である。

一  前提事実(争いがないか、後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成七年九月三日午前一一時三〇分頃

(二) 場所 神戸市須磨区稲葉町四丁目二番一〇号先の信号機による交通整理の行われていない交差点(以下、本件交差点という。)

(三) 争いのない範囲の事故態様等

原告は、原動機付自転車(神戸北な七九四一。以下、原告車という。)を運転し、本件交差点を北から南へ直進しようとし、他方、被告は普通乗用自動車(神戸三三ら四四。以下、被告車という。)を運転し、本件交差点を東から西へ直進しようとしていたところ、本件交差点内で原告車と被告車とが出合い頭の衝突をし、原告は原告車諸共転倒し、頸部挫傷、全身打撲、左顔面挫傷の傷害を負った(右の事故を以下、本件事故といい、右の原告の受傷を本件傷害という。)。

2  責任原因

被告は、被告車の運行供用者である(甲一)から、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任があり、また、本件事故に関し、前方不注視の過失がある(甲三、原告本人)から、民法七〇九条により、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

3  原告の損害

(一) 治療費等 合計六二万一二二三円

(1) 被告加入の保険会社である千代田火災海上保険株式会社承認分 合計六一万八六五三円

<1> 新須磨病院への支払分 四六万五五四〇円

<2> 薬局への支払分 一三万一二六八円

<3> 原告の新須磨病院及び神戸大学医学部附属病院(以下、神大医学部という。)への支払分 合計二万一八四五円

(2) その他 合計二五七〇円

<1> 症状固定診断書料 二〇六〇円

<2> 通院証明書料 五一〇円

(二) 通院交通費 四三四〇円

原告の神大医学部への通院のためのバス代七日分は、四三四〇円である。

(三) 物損(原告車の積荷である食料品の損壊) 五三三四円

4  損益相殺

被告加入の保険より、五九万六八〇八円の支払を受けた。

二  争点

1  本件事故の態様及び過失相殺の有無とその程度

2  右点に関する当事者の主張の要旨

(一) 原告

(1) 本件事故の態様

原告は、原告車を運転し、本件交差点を北から南へ直進しようとし、他方、被告は被告車を運転し、本件交差点を東から西へ直進しようとしていたところ、本件交差点内で原告車と被告車とが出合い頭の衝突をしたが、被告の進行道路には本件交差点手前に一時停止標識(以下、本件標識という。)が設けられており、原告の進行道路が優先道路であり、また、本件交差点は被告進路にとって交差点入口の右方には植え込みや瓦礫があり、かつ、路上にワンボックスカーが駐車中で、右方道路の見通しが極めて悪かったのであるから、被告としては本件標識に従って、一時停止するのはもちろんのこと、停止地点等で左右の安全を確認すべき注意義務があるのに、これを怠り、右方道路の安全を確認しないまま、漫然と本件交差点に進入したため、本件交差点内で原告車と被告車とが出合い頭の衝突をした。なお、被告は、衝突するまで、原告車を発見できなかった。

(2) 過失相殺の有無とその程度

本件事故発生につき、原告にも一定の過失があることは争わないが、その割合は二割であり、残りの八割は被告の過失である。

(二) 被告

(1) 本件事故の態様

本件事故は、原告主張のとおり本件交差点(信号機による交通整理の行われていない交差点)において、一方に一時停止の規制がある場合のうち、原告車(単車)にその規制がなく、被告車(四輪車)にその規制がある直進車同士の出合い頭事故である。

(2) 過失相殺の有無とその程度

この場合、被告車(四輪車)に一時停止義務があるのに対し、原告も自認するとおり本件交差点は見通しが悪い交差点であるから、原告車(単車)にも徐行義務がある。

そして、本件事故では、被告(四輪車の運転者)は、一時停止義務を尽くしているのに対し、原告(単車の運転者)は徐行義務を怠っている。

従って、本件事故における双方の過失割合は、原告が三割五分、被告が六割五分とみるのが相当である。

3  原告の損害額は幾らか(以下、争点2という。)。

4  右点に関する当事者の主張の要旨

(一) 原告(なお、原告の損害額の計算過程を分かりやすくするために、前提事実3の原告の損害及び損益相殺等も含めて主張する。)

(1) 原告の通院

原告は、本件傷害の治療のため、平成七年九月三日から平成八年一二月九日まで新須磨病院に通院し、平成七年九月二六日から平成八年一二月一〇日まで神大医学部に通院した。なお、各通院実日数は、別紙「通院期間・通院実日数一覧表」記載のとおり、一五七日と七日である。

(2) 治療費等 合計六四万二九〇七円

<1> 前提事実3(一)関係 六二万一二二三円

<2> 色素沈着防止日焼け止めローション及びクリーム代関係 九六〇九円

<3> 診断書料等関係 一万二〇七五円

ア 診断書料(神大医学部分) 一五七五円

イ 診断書料(新須磨病院分) 五〇〇〇円

ウ イの前提となる電話による説明料 五〇〇〇円

エ イ、ウの合計一万円に対する消費税 五〇〇円

(3) 慰謝料 合計二二二万円

<1> 傷害慰謝料(入、通院慰謝料) 一七二万円

原告の通院の実態は、右(1)のとおりであり、通院期間は約一五か月であるが、本件傷害は本来約一か月の入院を要するものであったものの、平成七年九月当時は阪神大震災の影響で、入院できず、通院せざるを得なかったものである。そうすると、入院相当期間約一か月、通院相当期間約一四か月とみて、原告の傷害慰謝料(入、通院慰謝料)は一七七万円とするのが相当である。

<2> 等級外後遺障害慰謝料 五〇万円

原告には、本件傷害により顔面頬部に色素沈着(一・二センチメートル×二・五センチメートル)、下顎部に線状瘢痕(一センチメートル)の後遺症(以下、本件後遺症という。)が残り、現在も寒いときには頬部に激痛が生じる。なお、自賠責後遺障害認定においては、等級外とされている。そうすると、原告の等級外後遺障害慰謝料は五〇万円とするのが相当である。

(4) 通院交通費 四三四〇円

(5) 逸失利益 一九〇万四三一八円

原告は、本件事故後本件傷害により平成八年三月まで全く家事に従事できなかったところ、この間の就労不能による逸失利益は、次の計算のとおり一九〇万四三一八円である。なお、冒頭数字は、平成七年賃金センサス産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の全年齢平均に基づくものである。

三二九万四二〇〇円×二一一日÷三六五日=一九〇万四三一八円

(6) 物損 合計二四万六一五九円

<1> 原告車を廃車したことによる買替え分 一八万二八二五円

なお、原告は、原告車(廃車分)を平成四年五月一六日、一二万七〇〇〇円で購入した。

<2> 原告車の積荷である食料品 五三三四円

<3> 原告が身に付けていた眼鏡 四万八〇〇〇円

なお、原告は、右眼鏡を平成五年頃、四万八〇〇〇円で購入した。

<4> 原告の着衣一式(出血により汚損、破棄) 一万円

なお、原告は、右衣類一式を平成六年頃、合計一万二〇〇〇円位で購入した。

(7) 損害賠償請求関係資料取寄せ実費 合計一一五五円

<1> 事故証明書料 六〇〇円

<2> 刑事記録謄写料 五五五円

(8) 以上合計 五〇一万八八七九円

(9) ところで、被告の過失割合は、前記のとおり八割が相当であるから、被告には以上合計五〇一万八八七九円に八割を乗じた四〇一万五一〇三円の損害賠償義務がある。

(10) そこで、右の四〇一万五一〇三円より前提事実4の損益相殺額(五九万六八〇八円)を差し引くと、被告の未払額は三四一万八二九五円となる。

(11) 弁護士費用の加算

そして、右の三四一万八二九五円に弁護士費用相当額(右金額の一割である三四万一八二九円)を加えると、三七六万〇一二四円となる。

(12) よって、被告は原告に対し、右の三七六万〇一二四円の損害賠償義務がある。

(二) 被告

(1) 原告の右主張は概ね争う。なお、(2)以下で被告の認める限度を特定する。

(2) 治療費等関係 前提事実3(一)関係の六二万一二二三円

(3) 慰謝料関係 九五万円

<1> 傷害慰謝料(入、通院慰謝料)関係について、実通院日数からみて九か月の通院と評価し、九五万円が相当である。

<2> 等級外後遺障害慰謝料

自賠責後遺障害認定を得ておらず、争う。

(4) 通院交通費関係 四三四〇円

(5) 逸失利益又は休業損害関係 九二万九五九六円

原告は、本件傷害により、本件事故日から平成七年九月末日までの二八日間全日就労不能、同年一一月一日から治療終了まで実通院一日当たり半日の就労不能と各評価されるので、就労不能日は全体として一〇三日間とみるのが相当である。

そうすると、この間の就労不能による逸失利益又は休業損害は、次の計算のとおり九二万九五九六円である。

三二九万四二〇〇円×一〇三日÷三六五日=九二万九五九六円

(6) 物損関係 前提事実3(三)関係の五三三四円

(7) 以上被告が認める限度の損害に前記の被告主張の過失相殺をしたうえで、前提事実4の損益相殺をすべきである。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様及び過失相殺の有無とその程度)について

1  事実認定

前提事実1と証拠(甲二ないし四、三四の一部及び原告本人の一部)並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ、右認定に反する甲三四、三五及び原告本人の供述は、それとは反対趣旨の前掲の関係各証拠及び後記判断で認定の事情に照らして、そのままには信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 原告は、原告車を運転し、本件交差点を北から南へ直進しようとし、他方、被告は被告車を運転し、本件交差点を東から西へ直進しようとしていたところ、本件交差点内で原告車と被告車とが出合い頭の衝突をし、原告は原告車諸共転倒し、原告は本件傷害を負った。

(二) 原告側の事情

(1) 原告は、本件交差点に北から南へ向けて進入するに際し、本件交差点入り口付近の原告車進行道路の左側にワンボックスカーが駐車中で、左方道路の見通しが悪かったにもかかわらず、減速も徐行もしないで、時速二〇キロメートル程度の速度のままで進行し、右ワンボックスカーの右横を通過した直後に左前方より本件交差点に進入しようとしている被告車を発見し、かつ、被告が原告の方向(被告からみれば、右前方)を見ていないことが分かったので、原告車にブレーキを掛けると共に右にハンドルを切ったが、間に合わず、本件事故が発生した。

(2) ところで、原告が被告車を発見した場所から本件事故現場(衝突場所)までは、九メートル程度の距離があった。

(三) 被告側の事情

(1) 被告の進行道路には本件交差点手前に本件標識が設けられており、原告の進行道路が被告のそれとの関係で優先する道路であり、また、本件交差点は被告進路にとって交差点入口の右方には植え込みや瓦礫(土砂を含む。)があり、かつ、原告の進行道路上にワンボックスカーが駐車中で、被告から見て右方道路の見通しが悪かったところ、被告は本件標識に従って、一時停止をした後、発進してから右方を軽く見て、次に右停止地点から約四・六メートル先で左方を十分見た後、前を向いたところで、原告車に衝突したので、被告車にブレーキを掛け、本件事故現場(衝突場所)から約三・五メートル先で被告車を停止した。

(2) 被告は衝突するまで、原告車を発見できなかった。

(3) ところで、本件事故発生時点の被告車の速度は、時速一〇キロメートル程度であった。

(4) なお、被告が右一時停止した地点から右方の見通しは悪く、右ワンボックスカーの左横を通過してくる車は見えにくかったが、右(1)の左方を十分見た地点(右停止地点から約四・六メートル先の地点)からは右ワンボックスカーの左横を通過してくる車は十分に見えた。

2  判断

以上認定の事実により、次のとおり判断する。

(一) 本件事故の態様

本件事故の態様は、信号機による交通整理の行われていない交差点(本件交差点)において、一方に一時停止の規制がある場合のうち、原告車(単車)にその規制がなく、被告車(四輪車)にその規制がある直進車同士の出合い頭事故であり、互いに見通しの悪い交差点での事故である。

(二) 過失相殺の有無とその程度

(1) 本件事故の場合、被告車(四輪車)に一時停止義務があるのに対し、本件交差点は見通しが悪い交差点であるから、原告車(単車)にも徐行義務がある。

(2) そして、本件事故では、被告(四輪車の運転者)は、一時停止義務を尽くしたが、その後の右前方注視義務を怠っている(なお、右のように右前方の見通しが悪い交差点においては、右前方が十分見える地点まで前進した後、そこで一旦停止し、右前方の安全を確認してから、再発進する運転態度が要求されるものというべきである。即ち、被告は、いわゆる二重発進をすべきであった。)のに対し、原告(単車の運転者)は徐行義務を怠っている{原告は、本件交差点に進入する際、時速二〇キロメートル程度の速度から減速せず、かつ、徐行もしなかった。なお、原告本人は、時速一〇ないし一五キロメートルで本件交差点に進入した旨供述し、また、同様の記載のある陳述書(甲三四)を提出するが、原告が被告車を発見した場所から本件事故現場(衝突場所)までは、九メートル程度の距離があったのであるから、仮に時速一〇ないし一五キロメートルの速度で進入したとしたなら、原告は本件事故現場手前で停止でき、本件事故に遭わなかったものといえるから、右の原告本人の供述及び甲三四はそのままには信用できない。}。

(3) 以上の諸事情によると、原、被告双方の過失が相俟って本件事故が発生したものというべきであり、かつ、本件事故における双方の過失割合は、原告が二割五分、被告が七割五分とみるのが相当である。

二  争点2(原告の損害額は幾らか)について

1  事実認定

前提事実1、3と証拠(甲四、八、一一、一三、一五ないし二〇、二二、二三の1、2、二四、二五、二八ないし三四、三七、三九ないし四一、四五の1、2、四六ないし四八及び原告本人)並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 原告の通院

(1) 原告は、本件傷害の治療のため、平成七年九月三日から平成八年一二月九日まで新須磨病院に通院し、平成七年九月二六日から平成八年一二月一〇日まで神大医学部に通院した。なお、各通院実日数は、別紙「通院期間・通院実日数一覧表」記載のとおり、一五七日と七日である。

(2) ところで、原告の本件傷害は、平成九年五月一三日までに症状固定し、本件後遺症(顔面の色素沈着及び下顎部の線状瘢痕)が残存した。

(二) 原告が本件事故により被った損害又は負担した金員は、次のとおりである。

(1) 治療費等 合計六四万二九〇七円

<1> 前提事実3(一)関係 六二万一二二三円

<2> 色素沈着防止日焼け止めローション及びクリーム代関係 九六〇九円

なお、右は原告の顔に瘢痕を残さないために神大医学部の田原医師が右クリーム等の使用を指示したことによるものである。

<3> 診断書料等関係 一万二〇七五円

ア 診断書料(神大医学部分) 一五七五円

イ 診断書料(新須磨病院分) 五〇〇〇円

ウ イの前提となる電話による説明料 五〇〇〇円

エ イ、ウの合計一万円に対する消費税 五〇〇円

(2) 慰謝料関係

<1> 原告の通院の実態は、右(一)のとおりであり、通院期間は約一五か月であるが、本件傷害は原告が約一か月入院してもおかしくない程度のものであったが、平成七年九月当時は阪神大震災の影響で、近くの病院の病床が不足していて入院できず、通院せざるを得ない側面もあった(なお、灘区の海星病院には、入院のための病床があったが、右当時は交通事情が劣悪であり、右病院まで原告の夫が原告の世話をしに通うのが困難であった。)。

<2> 原告には、右のとおり本件傷害により本件後遺症が残り、現在も寒いときには頬部に痛みが生じる。なお、自賠責後遺障害認定においては、等級外とされており、外見上顔面に目立つほどの醜状は見られない。

(3) 通院交通費 四三四〇円

(4) 逸失利益

<1> 原告は、本件事故後本件傷害により平成八年三月末頃まで殆ど家事に従事できず、かつ、顔が腫れていたので、宅建主任として外出して仕事ができなかった。

<2> ところで、原告は、平成六年まで夫の経営する会社の従業員として、月額一〇万円の収入を得ていたが、平成六年に須磨区に移転して夫の個人営業となってから間もなかったこと、阪神大震災の影響で仕事が激減して右個人営業が赤字であったこと、原告と夫は夫婦であることから、平成七年には給料を貰っていなかったが、平成七年も夫が宅建主任の資格を有していないことから、仕事があるときは原告が宅建主任として不動産契約に関与していたが、本件事故後は宅建主任の資格を有する他人に頼まざるを得なかった。

(5) 物損

<1> 原告車(廃車分)の損害

ア 原告は、原告車(廃車分)を平成四年五月一六日、一二万七〇〇〇円で購入し、原告車(廃車分)は原告の所有であったが、本件事故により、廃車にせざるを得なかったが、本件事故がなければ、購入から三年強経過した中古バイクとして五万円程度の交換価値があった。

イ 原告は、平成七年九月六日頃、付属品込みで新車バイクを一八万二八二五円で購入した。

<2> 原告車の積荷である食料品 五三三四円

<3> 原告が身に付けていた眼鏡

原告は、右眼鏡を平成七年六月頃、三万九九六四円で購入したところ、本件事故でこれが損傷したので、平成七年一一月九日眼鏡を四万八〇〇〇円で新調した。

<4> 原告の着衣一式(出血により汚損、破棄)

原告は、右衣類一式を平成六年頃、合計一万二〇〇〇円位で購入したところ、本件事故によりこれが出血により汚損したので、これを破棄した。

(6) 損害賠償請求関係資料取寄せ実費

<1> 事故証明書料

原告は、本件訴訟用に、代金六〇〇円で交通事故証明書(甲一)の交付を受けた。

<2> 刑事記録謄写料

原告は、本件訴訟用に、刑事記録(甲二ないし四)を神戸地方検察庁で謄写したが、右謄写費用は五五五円であった。

2  判断

以上の事実によると、本件事故により原告の被った損害は、次のとおり認められる。

(一) 治療費等 合計六四万二九〇七円

(二) 慰謝料関係 一六〇万円

(1) 傷害慰謝料(入、通院慰謝料)関係 一六〇万円

<1> 原告の通院の実態は、以上認定のとおりであり、通院期間は約一五か月であるが、確かに本件傷害は原告が約一か月入院してもおかしくない程度のものであったことが認められる。

<2> しかし、入院慰謝料は、実際に入院したことによる煩わしさ、苦労に対する評価であり、入院相当であっても実際は通院しかしていない場合には、通院慰謝料として評価せざるを得ないものというべきである。

<3> 右の観点から、原告の通院慰謝料を検討すると、以上認定の原告の通院の実態及び本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、原告の通院慰謝料は一六〇万円と認めるのが相当である。

(2) 後遺障害慰謝料関係

本件後遺症は、自賠責後遺障害認定においては、等級外とされており、外見上顔面に目立つほどの醜状は見られず、その他後遺障害慰謝料を認める程の後遺症が残存しているとは認めるに足りないから、後遺障害慰謝料は認めないものとする。

(三) 通院交通費 四三四〇円

(四) 休業損害(又は逸失利益) 一〇四万〇五四七円

(1) 休業損害は、現実に得ていた収入(但し、家事労働相当分も含むものと解する。)を喪失したことに対する填補であるものと解する。要するに、本件のように休業期間が長くない場合には、賃金センサスを採用して、損害を擬制するのではなく、実損害を算定すべきものと解する。

(2) 原告の休業を要した期間は、本件事故日(平成七年九月三日)から平成八年三月末日までの二一一日間であるものと認められる。

(3) 右の期間、原告は本件傷害により殆ど家事に従事できず、かつ、顔が腫れていたので、宅建主任として外出して仕事ができなかったところ、平成七年当時は夫の事業が赤字であったことなどの諸事情で原告は給料を貰っていなかったが、実際には従前同様月額一〇万円相当の労働力を提供していたものと認められる。また、原告の家事労働相当分は、月額五万円と評価するのが相当である。

(4) 右の事実によると、原告の右の期間中の休業損害は、次の計算のとおり一〇四万〇五四七円であると認められる。

(一〇万円+五万円)×一二月×二一一日÷三六五日=一〇四万〇五四七円(円未満切捨)

(五) 物損 一〇万〇三三四円

(1) 原告車(廃車分)の損害 五万円

<1> まず、原告車(廃車分)の損害は、本件事故により要した修理費用又は廃車せざるを得ない場合には、本件事故時点での評価額(交換価値)を基準にすべきものである。

<2> そして、原告の所有であった原告車(廃車分)は、本件事故により廃車にせざるを得なかったが、本件事故がなければ、購入から三年強経過した中古バイクとして五万円程度の交換価値があったというのであるから、原告車(廃車分)の損害は、五万円と認めるのが相当である。

(2) 原告車の積荷である食料品 五三三四円

(3) 原告が身に付けていた眼鏡 三万五〇〇〇円

右眼鏡は原告がこれを平成七年六月頃、三万九九六四円で購入したものであり、本件事故でこれが損傷したが、右購入から本件事故まで三か月程度しか経過していないので、右眼鏡の損害額は三万五〇〇〇円と認めるのが相当である。

(4) 原告の着衣一式(出血により汚損、破棄) 一万円

原告の着衣一式は原告がこれを平成六年頃、合計一万二〇〇〇円位で購入したものであり、本件事故によりこれが出血により汚損したので、これが破棄されたが、右購入から本件事故まで一年程度しか経過していないので、右原告の着衣一式の損害額は一万円と認めるのが相当である。

(六) 損害賠償請求関係資料取寄せ実費 一一五五円

(1) 事故証明書料 六〇〇円

原告は、本件訴訟用に、代金六〇〇円で交通事故証明書(甲一)の交付を受けたのであるから、右六〇〇円も本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(2) 刑事記録謄写料 五五五円

原告は、本件訴訟用に、刑事記録(甲二ないし四)を神戸地方検察庁で謄写したが、右謄写費用は五五五円であったのであるから、右五五五円も本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(七) 合計 三三八万九二八三円

以上のとおり、原告の損害は、1治療費等・六四万二九〇七円、2慰謝料関係・一六〇万円、3通院交通費・四三四〇円、4休業損害・一〇四万〇五四七円、5物損・一〇万〇三三四円、6損害賠償請求関係資料取寄せ実費・一一五五円、合計三三八万九二八三円となる。

(八) 過失相殺による修正 二五四万一九六二円

前記の割合により、過失相殺をすると、原告の損害は、右合計三三八万九二八三円に七割五分を乗じた二五四万一九六二円(円未満切捨)となる。

(九) 損益相殺による修正 一九四万五一五四円

損益相殺の対象額が五九万六八〇八円であることは、前提事実4のとおりであるので、右の二五四万一九六二円から右の損益相殺対象額を差し引くと原告の損害は一九四万五一五四円となる。

(一〇) 弁護士費用相当の損害

原告が原告訴訟代理人に本件訴訟の提起、遂行を委任したことは当裁判所に明らかであるところ、本件訴訟の難易度、右損害の認容額、その他本件に現れた一切の事情を合わせ考えると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、二二万円と認めるのが相当である。

(一一) まとめ

よって、被告は原告に対し、右の一九四万五一五四円に二二万円を加えた合計二一六万五一五四円の損害賠償義務がある。

三  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、右の二一六万五一五四円及びこれに対する本件事故日である平成七年九月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余の請求は理由がないから、これを棄却することとする。

(裁判官 片岡勝行)

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